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2014-03-05

「ありがとう」って言ってもらうため〜第9回 はたらくインタビュー【名古屋市役所 長崎正幸氏】〜


長崎正幸氏

はたらく課第9回インタビューは、名古屋市市役所職員の長崎正幸さんです。市役所の仕事というと、どうしても区役所の窓口のような仕事を想像してしまいますが、観光推進室に所属し、テレビ塔や名古屋国際会議場を担当する長崎さんは、NPOとの協働事業を実施したり職場の環境改善をしていたりと、自ら動いて仕事をつくっています。また、外に出て防災のコミュニティにも参加するなど、市役所職員の枠を超えて活動をしています。そんな長崎さんに、“はたらく”についてお伺いしました。(※2014年03月05日 現在の情報です。)

―名古屋市役所に入所する前は、民間企業に勤めていたそうですね。
はい。大学を卒業して、ゼネコンに入社しました。経歴だけみると順調に見えますが、大学入試に一度落ちています。翌年は大学に合格し、希望の建築学科にも進むことができたのですが、大学4年で院試に失敗。既に9月で就活も終わっていましたが、なんとか就職することができたといった具合です。

―なぜ退職して、名古屋市役所を選んだのですか?
結婚を機に人生が変わりはじめました。ゼネコンでは現場監督をしていたのですが、現場が忙しく、ほとんど休みもなく働いていて、家に帰れない日もありました。さらにハードな現場に行くことが決まった時、体がもたないし家族との時間もとれないと思い、退職しました。
会社を辞める時に、他の部署に異動させるからなどと引き留められましたが、現場が好きでしたし、他の部門に異動して逃げたと思われるのが嫌でした。そのまま会社にいるのは、居心地が悪いと思うくらいであれば、全然違う分野に行こうと思い、公務員試験を受けて私と奥さんの両方の実家に近い名古屋市役所に入りました。
ゼネコンに入社したばかりの時、上司に「辞めるなら今のうちだぞ」と言われて(笑)、ただそれは「やるならとことんやれよ!」という意味が込められた言葉だったので、5年で辞めたのは心苦しいのですが、今は市役所でとことんやらなくちゃ!と思っています。

―市役所に入ってからは、どのような仕事をしているのですか?
最初は建築指導課に配属になりました。建築に関係する仕事ではありますが、実際は建築基準法に基づく許認可の仕事がメインで、それまで法規についてまったく知識がなかったので苦労しました。次の異動先は営繕課で、市の施設をつくっているところです。前職の経験もあり現場のことはある程度はわかるのですが、設計や工事監理という点では素人だったので、必死で勉強しました。その次が今の職場の観光推進室です。これまでの職場とは全然違って戸惑いました。名古屋開府400年のイベントとして始まったアカリナイトが私の担当になりました。イベント企画をやったことがなかったですし、広告代理店の方とも何を話したらいいのかわからなくて・・・最初の打ち合わせでは一言もしゃべれなかったですね。(苦笑)

―転職、部署移動など、仕事の内容が変わっていく中で、意識しながら働いていることはありますか?
「他の人がやっていないことをやる」、「自分の得意なことをやる」、この2つを意識しながら働いています。他の人と同じことをやろうとすると比較されてしまいますが、誰もやっていないことをやろうとすれば、誰もわからないので比較されません。建物の耐震改修で、既存の施設に免震装置を取り付けるレトロフィットという技術があるのですが、これを前職のゼネコンでは私が初めて担当しました。当時入社4年目で、社内の誰もやったことがなくて、所長も「お前に任せた」という状況でした。会社としてバックアップするとは言ってくれたものの、現場には構造設計部長など偉い人がたくさんきて、それをまとめていくいのは4年目の私なんですよね。でも、誰もやっていないことをやりきった後は社内で一目置かれるようになりました。最近ではNPO法人と連携してプロジェクトを立ち上げるなど、他の人がやっていないことに挑戦しています。

―前職での経験が今に生きているのですね。その他に、仕事をするうえで大切にしていることはありますか?
たくさんの人と繋がることが大事だと、前職の上司から教わりました。ゼネコンは人づきあいが濃くて、現場が変わっても同じ職人さんと一緒に仕事をすることが多いのです。現場の職人さんは不器用な人が多くて、初対面なのに「ばかやろう!」と言われたりすることもありましたが、その後仲良くなって、今でも年賀状のやりとりがあったり、飲みに行ったりもしています。また、現場では自分の言うことを聞いてくれる業者をたくさんつくれと言われました。下請け、元請けという立場があって、ビジネスだから時には無茶な仕事をお願いすることもあるかもしれないけれど、飲みに連れていくとかも含めて信頼関係を築いておけと。
市役所に入ってからも何年かに一度異動はありますが、委託先は自分の業者だと思って仕事をしています。だから、周りの人から委託先に関してとやかく言われるのが嫌です。自分が言われている気がして・・・。委託先には、周りから文句を言われないように厳しいことも言いますが、その代わりに役所の中で色々言われないようにしたいし、言われても言い返せるように心がけています。この考え方は古いかもしれないけれど、大切にしています。

長崎正幸氏  長崎正幸氏

―繋がりを大切にしているのですね。人と繋がる上で、意識していることはありますか?
私の知り合いの方から、市に対して防災の提案をしたい相談があったとき、私では処理しきれないと思い、おそるおそる(笑)消防局に相談に行ったことがありました。そうしたら消防局の担当者も色々考えていて、それまで観光と防災は関係ないと思っていましたが、観光客というのは何か起きた時に地の利がない災害弱者で、そういったことを考えると、防災と観光の間には、実は深い関係があるのだとわかりました。普段真剣に考えてないだけで、考えたら誰とでも繋がれるなと、なんとなく見えてきました。繋がりは理屈の付け方次第で、何でもつくれると思います。ただ繋がればいい、というわけではありませんが・・・

―今、新たにチャレンジしている仕事はありますか?
KKTF(観推・片付け・タスク・フォース)ですね。これは、職場の片付けをするプロジェクトです。風通しの良い職場にしたいなと思って。隣の人が何をやっているのかわからないとか、意見を聞いてみたい時に声かけにくいとか・・・こういうことは皆の意思疎通の問題かも知れませんが、場がつくる雰囲気とか、環境とかにも問題があると思っています。そのために、ちょっと打合せしたい時にすぐ近くで話ができるスペースがあったり、休憩できるスペースがあったりしてもいいと思っています。役所ってストイックなのか、休憩するスペースがないんですよね。そんなアメニティーがないところで仕事をしろと言っても、やる気が上がらないでしょう!?

—KKTFをやろう!と思ったきっかけはなんですか?
色んな雑誌とかを読んでいて、企業の社長さんとかが「社長室をなくしました」とか「社員食堂を無料で提供しています」とか、働いている方のやる気を出させて生産性をあげているのに、役所ではそういった動きがあまりなかったので、仕事のやりやすい環境を整えようと思いました。またトヨタの片付けの本を読んで、その中に「片付けは仕事である」と書いてあったことに感銘を受けました。当時の職場では片付けや掃除は仕事ではないとみなされていたように感じていたので、片付けを仕事に組み入れますと上司に宣言し、タスクフォースチームを作りました。メンバーは4人。私がリーダをやっています。書類を整理したり机のレイアウトを変えたりと、職場環境をよくする活動をしています。

―具体的な活動のことや、活動の今後も目標はあるのですか?
KKTFでは、毎週火曜日に5分間、身の回りの掃除・片付けをしています。また木曜日には、書類の一斉点検を実施しています。「いつか使うだろうは、諸悪の根源」「人を責めるな、仕組みを攻めろ」が好きな言葉ですね。今後はいらない書類を減らしていって、空いたスペースに掲示板を作りたいと皆で言っています。課の目標など、その掲示板にあるといいなと思っています。ささいなことだけど、大真面目にやったら面白いと思って、日々の業務の中に組み込んで実施しています。

KKTF  KKTF

―最後に、長崎さんにとって「はたらく」とは?
「はたらく」とは、「人に、ありがとうと言ってもらうこと」ですかね。亡くなった父が言っていた言葉です。「ありがとう」って言ってもらうために仕事をしていると。思い出してみると、父は仕事を辞めてからもボランティア活動を色々やっていました。
高校の時の担任にも影響を受けました。名前が「横山 泰」で、やっぱり、ちょっと変わった人・・・いや、豪快な人でした(笑)「勉強は何のためにするのか?自分ため?それは違う。自分のためなら、自分が辞めたと言ったらそれで終わらせることができるから、ずっと頑張れないだろ。勉強するのは両親のため。近所の人が『息子さん、いい高校にいきましたね。将来は成功するんでしょうね』と言うけど、きっと皆、失敗することを望んでいる」と。ちょっと極端ですよね・・・・。
それでも、自分のためだけに何かをするのはダメなのかなと思うようになりました。「人のためにはたらく」は大袈裟かもしれませんが、家族のため、皆のため、自分がやることによって誰かに感謝されるということなのかなと。

―長崎さんのお話を聞いて、公務員など業種や職種に関係なく、自分の取り組む姿勢次第でチャレンジができるのだと感じました。自分自身もまだまだチャレンジできることがたくさんある!と思い、新しいことに挑戦したくなりました。また、最後の「はたらく」について、自分のためだと、自分が辞めたと言えば終ってしまう・・・の部分は、今一度、自分の仕事は誰のためにやっているの?かを考えさせられました。―

取材日:2014年01月29日/取材者:大野嵩明、中野 有美、前田智絵、若尾和義/写真:前田智絵 /記事:大野嵩明 /校正:前川みどり