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2015-06-15

「半歩踏み出す」ぐらいの気持ちで考える〜第15回 はたらくインタビュー【ビワ活版室 店主 堀内美佳氏】〜


堀内  
はたらく課第15回インタビューは、ビワ活版室 店主 堀内美佳さんです。 出会いは2012年12月20日、第8回インタビュー金工作家 田中友紀さんの取材の会場でした。田中さんは、ワークショップで活版印刷体験もとりいれていました。この時、使い方を教えてくださったのが堀内さんでした。活版印刷の難しさと魅力に触れながら、これをビジネスとして活動している堀内さんに興味を持ちました。昨年 大ナゴヤ大学でも、はたらく課の企画した授業で先生として活版印刷の魅力を紹介してくださいました。今回は、堀内さんがどのように一歩踏み出したのか?活版印刷の魅力とともに、独立することの大変さや面白さ、好きを仕事にする“はたらく”についてお話を伺いました。


—堀内さんがお仕事にされている「活版印刷(かっぱんいんさつ)」の魅力は何ですか?
インクの色が濃い薄い、へこみ具合など、1枚1枚思い通りにならないところが面白いんです。活版印刷は、まず1文字1文字の活字を指で拾ってそれを組み合わせた版をつくります。これを活版と言います。その活版を昔ながらの印刷機に組み付けて、1枚1枚手で刷っていきます。以前はどこにでもあった活版印刷は、デジタル印刷が進み、どんどん姿を消しました。

また、家庭や職場にはプリンターがあり、どこでも早くきれいに印刷できる時代。手間暇かけて印刷する活版印刷には、素朴な味わいがあります。ショップカードや名刺、結婚式の席次表に使われていたりしています。自分で印刷する楽しみもあります。自分の気持ち一つで印刷の仕上がりが変わります。陶芸などもその時の心が反映されると言いますが、活版もそうだと思います。同じ作業をしているのに、なぜか1枚1枚違う仕上がりになってしまう。そこが人間味があっていいのかもしれません。


—「活版印刷」をお仕事にされているのですが、きっかけは何だったのですか?
高校時代の親友が「活版印刷面白いよ!」と教えてくれたのがきっかけです。その親友は、働きながら雑貨店を始めていて、「紙ものの雑貨」や「活版印刷」が好きだったのです。彼女のお店を手伝っているうちに自分も活版印刷に興味を持ち始めました。最初に活版印刷を見たときには、懐かしいものやっているなぁ―という印象でした。その時は、わざわざ手刷りしてすごいなぁっと(笑)。

他のお店で活版印刷を体験したりする中で、面白いと思うようになりました。彼女が会社を辞めて、「一緒にやらない?」と声をかけてくれた時、何ができるかわからないけど、活版印刷を仕事にしようと決心しました。


堀内さん

—経験がないことを仕事にするのはすごいですね?
そうですね!あまり考えずに「とりあえずやってみよう!」という感じでした。活版印刷の機械を購入するところから始めました。昔ながらの重みのある中古の機械を探しました。サイトで販売している会社を探し、いくらなのかもわからずに、友人と二人で活版印刷をメンテナンスして販売している会社を訪問しました。

会社といっても倉庫のような場所。活版印刷をしていた会社がどんどん廃業して、機械を処分して在庫自体も少ない状況でした。これを手にしなければと思い、その場で購入しました。購入できる金額で良かったと思いました。お店の方に使い方を教えてもらおうとしたら、「触ってから来て」と言われて自分でやりながら学んでいきました。いきなり、職人の世界に入りました。手フートと呼ばれる機械、1枚1枚刷りながら学んでいきました。


—全くの独学なのですか?
ほとんど独学です。わからないことは、私の母に教えてもらいました。実は私の実家は印刷会社を営んでいます。ずいぶん前に、活版印刷は辞めて機械も手放しています。子供の頃、親が会社員から独立して印刷会社を始めたのですが経営が大変で、それを見ているのがつらくて印刷には関わらないと思っていました。

高校を卒業したら働こうと決め、安定を求めて、地元でも有名な食品メーカーの事務職に就きました。その私が、印刷の仕事で独立を目指して、母親に教えてもらうことになるとは思ってもいませんでした。


—事務職をされていたのですね!どうして安定した生活から変わったのですか?
食品会社の事務も6年もしていると、何でもできるようになってくるんです。安定した生活がつまらないと感じ始めました。その頃、同期の仲間たちは、留学したり、結婚したり、どんどん別の道を歩み始めました。「おいていかれる」とあせり始めました。私は、一生懸命父の仕事を手伝う母の姿が好きでした。

この頃「写植からデジタル印刷に変化しているの、ソフトの使い方を教えてくれない」と母からの言葉に、揺れ動いていました。「母を手伝いたい。」を理由に会社を辞めました。今考えると、辞めるためのいいわけだったのかもしれません。


堀内さん


—会社を辞めて、家業のお手伝いをされたのですか?
直接実家の手伝いはしませんでした。ハローワークで紹介された職業訓練でデザインを学びました。私が覚えたことを教えることで、母の役に立とうと思ったのです。この5ヶ月間は、本当に楽しかったです。クラスは20名、仲が良くて今でも付き合いが続いています。訓練の内容は、デザインソフトのイラストレーター、フォトショップの使い方から、WEBの組み立て、プレゼンテーションまで。

実践的な内容で、事務では体験できなかったアウトプットすることを楽しむことができました。おかげで、訓練校の紹介で派遣として働き始めて、正社員として働くこともできるようになりました。旅行のパンフレットを1人で任された時には、「こんなところもあるんだ!」と、地理にも詳しくなりました。

任されると頑張るタイプ。毎晩遅くまで、一番忙しい時は朝6時まで仕事していました。肉体的にも、精神的にも大変でした。そんなときに、「お店を一緒にやらない」のお誘いがあり、働きながらお店を始めました。


—活版印刷で独立された時、稼げるのか不安はなかったのですか?
スタートにあたっては、元々何もなかったので、そんなに不安はありませんでした。デザインの仕事の休みの時に、親友と一緒にお店探しから、内装や仕入れを手伝っているうちにどんどん楽しくなってきました。

親友は雑貨部、私は活版部として始めた小さなお店は、収益のことなど考えずに始めました。働きながら始めたお店なので、だめだったらまた働きながら続ければいいと思っていました。


—仕事を始めて大変だったことを教えてください
大変なことばかりです。オープンして、最初のご依頼を一度断ってしまいました。自分で勝手にプレッシャーをかけて、お客様の思っているものを提供できるのだろうか?と考え、自信がなくなったのです。ありがたいことに、そのお客様は「いつまでも待つよ!」と言ってくれて、100枚の名刺を刷りました。

何度も刷り直して、3ヶ月後納得のいくものを納品しました。お客様にも喜んでいただきました。こんな感じで仕事をいただいても、あまり利益は出ませんでした。また、ほとんど印刷の注文も入ってきません。営業的なこともしていなかったし、当然といえば当然ですよね!ワークショップをやったり、印刷機をレンタルする方はみえましたけど…。雑貨のお客さんは来るけど、活版のお客さんは来ない。お店までの往復2時間がしんどくなってきました。


—どうして続けられたのですか?
周りに活版を好きでいる方、興味を持ってくれる方がいたからです。興味を持ってくださる方がイベントに誘ってくださったり、イベントに出るとさらに新たな出会いもあって、少しずつ輪が広がっていきました。

大ナゴヤ大学さんの授業での出会いがきっかけで、新たなワークショップを開催できたり、お祭りのワークショップを見学された人から名刺の注文をいただいたり。少しづつ、結婚式の席次表やショップカードや、名刺などの印刷の仕事も増えてきました。収益の足りない部分は、デザインの仕事をして補っています。

堀内さん

—活版印刷を仕事とする前と、始めた後で変わったことは?
人の前に出ることが増えたことと、知り合いが増えたことです。前の職場では絶対に知り合えない人たちと逢えていると思います。人前で話すことが苦手で、納品の時も緊張します。ワークショップを開催したり、大ナゴヤ大学さんでも授業をしたり、昔は考えられなかった。好きなことだから、できることだと思います。


—今後独立する人や仕事で迷っている人へのアドバイスは?
とりあえず、気になることはやってみたらいいと思います。1日でやめてしまったとしても、やってみたから違うとわかったと思うし、逆に軽い気持ちではじめたものが、ずっと続く場合もあると思うので。絶対に正社員というのも違う、はたらきながらでも、どんなちいさなことでも、はたらくにはいろんなカタチがある。

私自身も、また違う仕事に出逢う可能性もあるかもしれません。私が好きな言葉に、イチハラヒロコさんの恋みくじでひいた「この世に つまらん 仕事なし。」があります。この言葉を読むと気持ちが楽になります。なぜこの言葉が、恋みくじなのか?はわかりませんが(笑)


堀内さん

—最後になりますが、堀内さんにとって『はたらく』とは?
私にとってのはたらくは、「人の役に立てればなあ」です。事務、デザイン、ワークショップ、印刷などをしてきて、サポートしている方が自分らしいとわかりました。活版印刷は、作家として仕事をする人がほとんどですが、私は注文を受けて印刷をすることを中心に活動していきたいと思います。


―堀内さんは、ありのままを伝えていただきました。経営が厳しい自営の現実を知り、最初は安定を選んだ堀内さん。独立して、知識や経験が少なく、人前に出ることが苦手なことも、好きなことに取り組むことでできるようになる。何か活動をすることで、人のつながりが生まれて新しい仕事が生まれる。

堀内さんのお話を伺って、「自分は考えすぎたり、知りすぎたりして、あきらめてしまっていることがあるのではないか?」と自問自答しました。堀内さんのように、とりあえずやってみる。「半歩踏み出す」ぐらいの気持ちで考えると、もっとできることがありそうです。―


≪ ビワ活版室 堀内美佳さん
≪ 大ナゴヤ大学 活版印刷授業

取材日:2014年8月19日、2015年5月13日/取材者:石坂喜和、大野嵩明、前田智絵、若尾和義 /写真:前田智絵、若尾和義、堀内さんより借用 /記事:若尾和義 /校正:萩原紘子/取材協力(場所提供):大ナゴヤ大学