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2011-08-31

夢をつかむこと〜第2回 はたらくインタビュー【株式会社くむ(旧株式会社マジックチューブ)代表 向井真人氏】〜


向井さん
はたらく課の第2回目のインタビューは、株式会社マジックチューブ代表の向井真人さん。マイクロソフトが主催する「イノベーション・アワード」で優秀賞を受賞するなど、革新的なアプリケーションの開発に取り組む、名古屋のITベンチャーの経営者として活躍しています。我々はたらく課の活動趣旨に賛同していただき、会議室をお借りするなど色々な面で協力してもらっていたものの、じっくりとお話を聞いたことはありませんでした。そこで今回は、いつもお世話になっているITベンチャー社長の向井さんの“はたらく”にスポットをあてました。

創業当初は、「えらいことはじめちゃったな~」と思っていました。

―向井さんが、ITと最初に出会ったのはいつ頃ですか?
ITとの最初の出会いは、小学校3、4年生の時だったと思います。クリスマスの朝、目が覚めると、頭の上に当時一般向けに発売されたマイコンが置かれていました。父は、マイコンを自分で基盤から作るのが得意だったので、息子にマイコンを買っておけば、自分もいじりたい放題になるという、父の思惑があったと思います。たぶん(笑)。

インタビュー風景


―おぉ!小学生頃、既にITと出会っていたのですね。その後、なぜ「会社を起業しよう!」と思ったのですか?
高校生になってからは、コンピュータークラブに入るなど、さらにプログラムにはまっていきました。その後、色々あって中京大学情報科学部に入学しました。この大学は、一芸入試を実施しており、プログラムで一芸入試受けたら通していただきました。プログラムの勉強ばかりしていて、受験勉強をしてこなかったので、この一芸入試は自分のためにある入試制度だと思いましたね(笑)。

大学入学後は、プログラムのアルバイトをしていて、卒業後はアルバイトでお世話になっていた会社にそのまま就職しました。しかし、会社が傾いてしまったので、1年2ヶ月ぐらいで退社し、その後5年間のフリーランスを経験し、再びフリーランスの時に一緒にやっていた方の会社に入ったのですが、営業を急に増やしたことで、うまく会社全体のバランスとれなくなってきて、中途半端になりそうだったので退社しました。フリーランスに戻るという選択肢もあったのですが、会社を設立して、規模をもっと増やしていく覚悟でビジネスをしてみようと思い、起業する決意をしました。


―フリーランスでやっていくのと、会社としてやっていくのでは、違いはありましたか?
そうですね。フリーランスとしてビジネスをやることと、会社の代表としてビジネスをやることが、こんなに違うのかとすごく感じましたね。2006年4月にマジックチューブを設立し、6月には事務所を構えました。最初は、愛知県がやっている「あいちベンチャーハウス」に入居しました。そこでは、会社の代表としてビジネスの話をする機会が多くあったのですが、周りの方からは「向井さん、何も知らないね!」と言われましたね(笑)。当初は、プログラムさえできればビジネスができると思っていたのですが、ベンチャーハウスにいる方々は、すごく人に気を遣っていて、細かい気づかいをできないとビジネスをやっていけないと思った時、自分にできるのか不安になりました。自分は人に対してすごく鈍感だったので、「えらいことはじめちゃったな~」と創業当初は思っていましたね。

向井さんインタビュー風景


人を育てるITベンチャーが生まれたわけ。それは、“恩返しの気持ち”だった。

―今は、社員の方や学生アルバイトを雇っているそうですが、人の採用はどのように進めていったのですか?
創業当初の頃に知り合った人で、一緒にやろうと言ってくれた仲間がいたのですが、その時は会社を経営していく力が足りてなくて、うまく自分の船(会社)に引きこむことはできませんでした。しかし、1人だとやれることは限られてくるので、アルバイトを雇えないかと考え、学生がどこまでプログラムができるか、全然わからなかったのですが、とりあえず学生アルバイトを探すことにしました。大学に出入りしている別々の友人からそれぞれ1人ずつ、アルバイトをしてみたいという学生を紹介してもらえました。一人はパソコンを使った制作に興味があるということで、プログラムに付随する提案書やグラフィックパーツを作る仕事を、もう一人はプログラムを組みたいということで、プログラミングの仕事を担当してもらうことにしました。(後に、2人は正社員になってくれました。)その後も、学生アルバイトは横の繋がりで増えてきて、代替わりをしながら、現在も継続的に来てくれています。


―人の面は順調に、進んでいったのですね。
そうですね。また、こちらも、学生とのやりとりの中で学ぶことがたくさんあり、教えるということが、すごく大切だということに気づきました。例えば、そこまで知らなくても、うわべだけのやり方を教えて、「後はやっといて!」と言っても、それなりに仕事はできると思います。

しかし、うわべの部分だけを教えていくと、根っこが同じ問題に出会った時にも、またやり方がわからなくて、再びうわべを教えなければならなくなります。それより多少時間がかかっても、根っこまで説明をして、それを理解してから進むというやり方のほうが良いと思って、この教え方を続けています。当初は、学生たちに教えれば教えるほど、自分の時間をとられ、仕事が遅れてしまうので、この教え方でいいのかすごく悩みました。「これであっているのか?いや、あっているはずだと!」という葛藤が続く中で、伸びなかった学生アルバイトが、半年後に急にグッと伸びたので、ベースがある人であれば、この方法は有効なのだという確信を持ちました。


―何事も基礎が大事ということですね。他にも、工夫して教えていることはありますか?
はい、あります。「いいわけをするな!」って怒られることってよくありますよね?僕はよくあったのですが、、、(汗)。昔は、「くちごたえをするな!」という勢いで「いいわけをするな!」と言われたと思っていました。だけど、今「いいわけをするな!」と言うとしたら、解釈が違って、「言い訳をしなければならなくなるようなやり方をするな!」という意味を込めて言います。そして、「もっとさかのぼって、ここからやっておく必要があるよ。」と付け加えます。「いいわけをするな!」と言う人はいるけど、それを言われた意味を教えてもらっていたら、考え方が変わったというか、次からやることが変わったと思います。そのことに気づいて、学生に教えていくうえで根拠を言うことはすごく重要だということがわかりました。

それで、うちの社内文化になっているのですが”伝えきる”ということがすごく大切だと思って、「相手に言ったことがわかっているかどうか確認をとれ」と言っています。お互いに伝わっていないと、それは伝える側の責任でもあるし、聞き取る側の責任でもあると思います。僕自身も、根拠がきちんとわかるように話をしていて、それで教えることに熱心になるというか、ついついあつくなってしまう時がありますね。


―丁寧に教えてきたからこそ人材が育って、そこで働きたいと思う人も集まってくるという、よい循環が生まれたのですね。しかし、なぜ自分の時間を割いてまで、学生に色々教えようと思ったのですか?
学生アルバイトたちに真剣に教えようと思った理由は、気持ち的な話になるのですが、“恩返し”みたいな感覚です。大学生の頃、僕のことを信じて仕事を任せてくれた人たちがいて、その時は自分のできる範囲で仕事をしていたので、自分自身は教えられた経験はないけれど、仕事をできる環境をもらえていた。その経験は、後の僕の人生に、すごく影響を与えたことだったので、学生に仕事を経験してもらって、それも厳しい中でつらい思いをしてではなく、アルバイト代としてお金をもらいつつ、いずれ何かの役に立つという場を与えられるとしたら、それはなんとなく、自分によくしてくれた人たちへの恩返しになるのかなと思っています。また、中途半端に学生に仕事を教えても、自分に返ってこないというのもあるから、一生懸命教えているのかな。

仕事風景 仕事風景


ITの仕事を知るきっかけになればいいなと思って、アルバイトを受け入れています。

―今、マジックチューブで働いている学生は、何人いるのですか。
アルバイトに来ている学生は、中京大学3名、名古屋市立大12名です。名古屋市立大の12名と知り合うきっかけになった子が1人いて、その子はうちの仕事をすごく気に入ってくれて、「自分はたまたまこの仕事にめぐり合ってよかったけど、まわりの友達は、デザインの勉強をしているのに、飲食店とかコンビニでアルバイトをしていて、自分はすごく恵まれていると思っています」と言ってくれました。そういう仕事の体験ができることは貴重で、コンビニバイトだけをしていて、自分がこの仕事をやりたいって具体的に見えてくるかといったら難しいと思います。

自分のやりたいことを学生の時に見つけられるのは恵まれていると思うし、実際はそうではない人が多いと思うので、だから僕が唯一やれることは、1人でも多くの学生に、うちでアルバイトして仕事を経験させてあげることだと思っています。そういう仕事の経験の中で、こんな仕事があるならやってみたいと思う、きっかけになればいいなと思って取り組んでいます。やりたいことを見つけるのは難しいけど、見つけるための体験が社会にあふれていてもいいと思いうし、気づいた人が、そういう場を用意してもいいのかなと思っています。

はたらくとは、“夢をつかむ”ことだと思いますね。

―最後に、向井さんにとって“はたらく”とは何ですか?
たぶん、夢をつかむことだと思いますね。やっていることって、そういうところに向かっていると思うので、夢に対して、プラスにはたらくかそうじゃないかで、やりたい、やりたくないが決まっていくと思っています。だから、結局仕事は、自分の夢のために向かって行くことであり、たぶんやっている仕事は、夢の内容で自動的に決まっているのでしょうね。

——-今回のインタビューを通じて、向井さんに対する印象が変わった。マイクロソフトの「イノベーション・アワード」で優秀賞を受賞するなど、本業の活躍は耳にしていたのですが、学生アルバイトを雇い、本気で教えていることは知りませんでした。その背景にある“恩返し”の気持も。また、自ら会社を経営されているので、言葉の一つ一つが吟味されていて、重みがありました。普段は、クールな向井さんですが、学生に対する思いや仕事の話が始まると、非常にあつく語っていただきました。向井さんのように、若い世代を育てる経営者が増えていったら、もっとこのナゴヤが元気になっていくのかもしれません。——-

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取材日:2011年8月10日/取材者:大野嵩明、前田ちえ、若尾和義/写真:前田ちえ/記事:大野嵩明