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2011-10-12

第3回 はたらくインタビュー【マルシェ・ジャポンなごや統括プロデューサー 栗田克則氏】


栗田克則氏
はたらく課第3回インタビューは、マルシェ・ジャポンなごや統括プロデューサーの栗田克則さんです。マルシェ・ジャポンなごやは、愛知県および愛知周辺地域の安全で美味しい食材を作り出す生産者と、それを求める消費者を直接繋ぐ場を提供しています。その運営は、日本通運株式会社名古屋旅行支店が行っており、栗田さんは日本通運株式会社本社(東京)に勤めています。そんな栗田さんに“はたらく”についてお伺いしました。


—マルシェ・ジャポンなごやはどのような経緯で始まったのでしょうか?
マルシェに出会う前までは、色んなことを経験してきました。入社から15年ほど総務・人事関係の業務に携わったあと、会社から社員30人と資本金を預けられ、人材派遣の会社を立ち上げました。3年程派遣会社運営を携わった中で、派遣会社に登録にこられる方の中には、有名大学を卒業していながら、職歴のない様な30代の若者が多くいました。そんな若者を見ていると、学歴って何だろうと思うようになりました。重要なのは、卒業してからどのようにビジョンをもって生きてきたかじゃないかと思います。お金を儲けたい人や安定した生活を求める人がおおいなかで、苦しみもがきながら懸命に生きている方に、生きる事はとっても楽しいことだとわかってもらえるように、私も必死で彼らと接してきました。

その後、本社へ異動した後、農林水産省が公募する「マルシェ・ジャポン」に出会いました。さっそく自分の夢を語りつくした課題提案書を作成し農林水産省へ提出しました。初めは東京・汐留の開催に応募しましたが落選。その後全国に展開するにあたっての2次公募がありました。その場所は名古屋か仙台か広島。日本通運は幸い全国に支店があるので、東京以外でも応募ができたので応募しました。日本通運は運送業なのでモノを販売するノウハウもありませんし、私にとってはここ名古屋には全く縁がありません。応募した当初は、生産者を知らない私達にどのように出店者を集める事ができるのか、と言われる事もありました。開催場所を探しに足繁く名古屋に通うなかで、さまざまな方との出会いがありました。僕も熱い人間なので、熱い人間には熱い人間が集ってくるんですね。そんな熱い方がいろんな方を紹介して頂き、人的ネットワークができました。これは本当に感謝しています。私にとっては、貴重な財産になっています。

    

—マルシェ・ジャポンなごやの出店者をどのように決めていますか?
とにかくまず僕が商品を食べてみます。やはり美味しくなくてはダメですよね。肥料をやるとかどうとかという能書より、食べてみて美味しいか美味しくないかが基本ですね。そして、どれだけ美味しいか表現できないといけませんね。また、野菜って鮮度が命ですよ。残念だと思ったことの一つに、前日に採ったトウモロコシを持ってきた出店者がいたんです。そんなの絶対に許せない。当然、当日朝採って持ってくるでしょう。消費者に美味しいものを提供するこだわりってそこだと思うのです。自分の作ったモノに対してしっかりアピールして欲しいと思っています。「俺が作った自慢の作品を食べてみろ!美味いだろ!」こんな高飛車な生産者が出てきて欲しい!


—以前から野菜に詳しかったのですか?
全く知りませんでした。今でも、そうですよ。でも我が家には一流の料理人がいるんですよ。これは本当にありがたいです。マルシェは、名古屋で始まる前に東京では既に始まっていました。東京のマルシェに通い、マルシェの売り方に惚れ込み、このやり方を名古屋でも具現化したいと思いました。東京のマルシェにはとにかく美味しそうな食材がたくさん売っていて、つい衝動買いして帰っていました。そんな衝動買いした食材を妻が、ネットでレシピを調べながら、今まで見た事も無い料理を作ってくれました。その料理が美味しい。今まで料理に興味がなかった妻は、僕がわけも分からない食材を買ってくるので、何かサプライズな料理をつくりたいと思うようになってきたそうです。そのような経験から、おそらく美味しい食材は料理に対する意欲をかり立たせるのではないか、と思うようになってきました。こんな経験は皆さんにもあるのではないでしょうか。


—マルシェの会場ではどのような点をみていますか?
まず、お客さんの反応を一番に見ます。次に各出店者のテントへ行って、いろんなモノを試食させて頂きます。そこでサクラじゃないけど、「うまい!」って言ってしまうんです。そうすると人が集ってきますね。時に「安くして」という方もみえますが、その辺の八百屋とは一緒にしたくないので気にしません。僕の理想は、値札のないマルシェをやることです。欲しいと思った野菜を欲しい価格で買って頂く。もちろん試食もやりながら。美味しければ、値段は後からついて来ると思います。


—現在、マルシェ・ジャポンなごやは、月一回(土日の二日間)の開催ですが、普段それ以外の時は何をしていますか?
3月11日の震災後、マルシェでは東北支援の活動をやっているのですが、今はそのウェイトが大きくなっています。東京ではその為の仕事をしています。東北の農作物は今、売り先が無くなってきているんです。先日の話ですが、福島県伊達市では例年桃狩りに多くの観光客がきて頂いたおかげで生産者は潤っていたのですが、今年はその観光客も無く、桃が余っている。余った桃は農協に引き取ってもらうしかない。という事で例年より倍の量の桃が農協に集ってきてしまい、困っている、という相談がありました。そこで、社内向けに桃を販売したりしています。また、風評被害の激しい福島産の作物の売り先を探すお手伝いをしています。もちろん、日本通運は運送業なので、物を仕入れて販売することはできないため、運搬の業務で支援させて頂いています。それと同時に、海外輸出に力を入れています。これはまだまだこれからですけど。

震災の一ヶ月後、仙台のファミリーレストランに立ち寄った時のことですが、食事をしに来ているお客さんが、泣きながらご飯を食べていたんです。僕は、ご飯を食べる事って、至福の喜びだと思っているんです。ご飯はやっぱり笑顔で食べなくてはいけないですよね。だから、仙台でその光景を見て、これは何とかしなくてはいけない、自分にできる事って何だろうと考えに考えました。そして出てきた答えが、東北の食材を食べて応援しようということでした。それで東北支援のマルシェを始めたのです。


—マルシェに関わってから何か変わりましたか?

以前より人の笑顔を見るのが大好きになりました。笑顔って大事ですよね。もちろん自分が笑顔でいることもです。自分が苦々しい顔をしているとモノも売れないし、楽しくないですよね。マルシェは、自分が笑っているのが一番ですね。バカじゃないかって思うくらい笑っています。人も好きですし、マルシェに来る皆さんに元気を提供したいですね。笑顔になって頂く為には、美味しい物を食べて欲しいですね。

マルシェは僕にとって気付きの場所なんです。売る事の難しさ、人と話す事の重要さ、いろんな方がいる事、常に笑顔で接することで皆さんが楽しそうにしてくれること。いろんな事を気付かせてくれました。

    

—栗田さんのお話を伺っていると、現在、会社でやりたい事ができているという感じがしますが?
仕事って、やらされていると思ってやっていると、やらされている所までしかできない。自分の仕事と思ってやれば、プラスαの事までできると思うんです。以前、サラリーマンとして上に忠実にやっている上司と、破天荒にやってきた上司の二人に言われた事がまったく違ったんです。上に忠実にやってきた上司からは、「いつか異動する時が来るので、今のうちにマルシェの仕事を誰かに引き継げ。」と言われ、破天荒な上司からは、「お前がいなくなったら、マルシェは終わりだな。」と言われました。マルシェは自分の仕事として、命をかけてやってきました。自分がマルシェを作ったという自負がある訳ではないけれど、僕のマルシェに対する想いを理解できないのではと思っています。僕の代わりに責任をもってやるという人が出てきても、心配で会場に来てしまうでしょうね。会社の仕事ですって言うのと、自分の仕事ですって言うのとでは重みが違います。マルシェは、自分の仕事だと思ってやっています。これまで会社の仕事と思ってやっているものは一つもありません。自分の仕事だから楽しい、単純なことです。当事者意識があるかどうかですよね。でも、異動になったら、引き継がなければならないですけどね。

実は僕M男君なのです。辛い事を味わうのが好きなんですね(笑) 変な例えですが、野菜炒めがありますよね。僕は初めに嫌いなピーマンを食べる。嫌いなものを皿の横によけてしまう人がいますが、そうするとピーマンの嫌な香が全体を包み込んでしまう。それが嫌なので、嫌いなモノを先に食べて口の中を不快にした後、好きなものを食べながら不快感を打ち消していく。仕事も一緒で、苦しい事を先にやってしまいます。その後は楽しい事しか残っていないじゃないですか。

つまらない事と思ってやっていると、仕事って辛いですよね。例えば、通常1分かかる仕事を、どのようにしたら早くできるのか。また、早くやるだけではなく、間違いの無いようにはどうしたらいいかと考えて仕事をする。そして、1分掛かった仕事が55秒でできるようになったら、それはその人らしさ、その人そのものじゃないですか。そのように自分に課題を与えて、いつもの仕事にエッセンスを加えていけば、仕事は楽しくなると思うんです。そうすれば、会社の仕事から自分の仕事に変わりますよね。


—最後に、栗田さんにとって“はたらく”とは何ですか?
僕の基本は、生きる事は全て遊びです。人生一度きりじゃないですか。だったら自分のやりたいようにしたい。だから、仕事を楽しめるような環境を作るように心がけています。僕にとって何かの課題を克服する事は遊びと一緒ですよ。若い人には働いたからなんぼって考えないで欲しいと思います。一度しかない人生をより楽しく生きていく為に“はたらく”があると思います。

    

——-インタビュー中、常に笑顔で話されていた栗田さん。所々で、「こんなことをやりたい」「マルシェはこうありたい」という夢を語ることがありました。インタビューの始め、“総務”という文字を、“創夢”と表現していたのが印象的でした。インタビューを終えて、それが栗田さんの発想の面白さであり、辛い事も楽しんでしまう栗田さんの前向きな姿勢を表しているように感じました。翌日、マルシェ・ジャポンなごや・金山会場へ伺いました。栗田さんは、東北支援ブースで楽しそうに野菜を棚に並べていました。私はその笑顔の奥に、インタビューで伺ったときの熱い想いがあることを直接感じることができました。——-

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取材日:2011年9月16日/取材者:小林俊介、前川みどり、澤井直樹/写真:前川みどり、小林俊介/記事:小林俊介