今できることを最大限やることが大事~第22回 はたらくインタビュー|リトルプラスベーグル 長谷川亜紗美
第22回はたらくインタビューは、リトルプラスベーグル 長谷川亜紗美さんです。一社にあるリトルプラスベーグルというベーグル屋さんを共同で運営しています。
今回は、自分で何かをはじめた方の”はたらく”との出会いをインタビューしました。ベーグルに関しては未経験の中で、どのようにお店をはじめたのか。また、お店を続けていく中で大事にしていることは何かなど、実体験を通じたお話を伺いました。
保育士専門学校を卒業後2年間保育士として勤務。接客業に興味を持ち転職を決意。カフェで6年間働きながらベーグルと出会い、マルシェなどで1年間出店しながら独学で勉強する。夢であった自分の店を開くために動き始め2015年リトルプラスベーグルをオープン。
≪リトルプラスベーグル
誰かのために何かしたい
一お店をやるまでは、何をしていたのですか?
長谷川 保育士として働いていました。両親からの愛情が足りている子もいるし、足りていない子もいます。例えば、100の愛情が人には必要で、親から30しか与えられていなかったら私が残り70を与えたいと、保育士をめざしました。
現実は、特定の子に愛情を注いではダメで、何十人も一緒にみないといけない。どんな仕事も嫌なことはいっぱいあります。でも、私はここでは踏ん張れないと思い、他の仕事に目を向けるようになりました。
一どのような仕事に目を向けたのですか?
長谷川 カフェに行くことが好きだったこともあり、働いている友達に仕事の話を聞いてみました。おいしい料理をつくって食べてもらうだけでなく、お客さんが喜ぶことを色々としている話など奥が深い仕事であることに気づきました。
私は、“誰かのために何かをすること”が好きで、そういうことができたらいいなとずっと思っていたので、カフェで働くことにしました。6年ぐらい働きながら、いつかずっと自分のお店を持ちたいと思っていました。
フリーターでいても生活はそれなりに楽しくできていました。なんとなく毎日が過ぎて気づいたら1年経つということの繰り替えし。どこか逃げじゃないですけど、将来お店を持ちたいということがあるから、私はただのフリーターじゃないと。
ベーグルに出会う
一6年間、飲食店で働きながら、自分のお店の持つことに対しては、なかなか踏み出せなかった。でも踏み出せた。具体的にどんな行動をとったのですか?
長谷川 夢のままずっと過ぎていく中で、今一緒にやっている仲間に出会いました。やりたいと言うだけじゃダメでカタチにしていこう決意し、お店の看板となるメニューは何がいいかを一緒に考えることにしました。
キッシュやケーキを焼いてみたりしたのですが「これだ!」というものになかなか出会えませんでした。2人でいつも行かないような古本屋さんに、たまたま立ち寄ったときに出会ったのがベーグルの本でした。パンは好きだったので買ってつくってみることに。
つくってみたら美味しくて、そのとき働いていた職場の人たちにも食べてもらいました。皆さん「美味しい!」と言ってくれたことが自信になり、売れる場所を探そうとイベントに出店したり、雑貨屋さんにも置いてもらいました。
一具体的に行動することで、少しずつ動き出したのですね。
長谷川 そうですね。1年間イベント出店などを続け、少しずつ自信もでてきてお店をやれるかもしれないと思うようになったタイミングで、知り合いの方に店舗デザイナーさんを紹介してもらい、そこから物件探しがはじまりました。
覚王山、藤が丘、栄、名駅など色々な場所を歩いたりしたのですが、なかなか見つからず・・・。一社に初めて物件を見に訪れたとき、2人で「初めて来た気がしないね」と話をしながら物件の前に着いて中に入った瞬間に号泣。特に霊感とかはないのですが何かを感じとったのか即決しました。
物件を探すとき、歩いて周辺の環境とか人の流れとかリサーチをすると思うのですが、自分たちのやりたいイメージに合うかどうかという空気感だけで決めました。
ここに来ると何かプラスになるものがある
一お店の名前はどのように決めたのですか?
長谷川 お店は癒される場にしたいと考えていました。私は、すごく気にしやすいタイプで、ナイーブというか・・・。人の顔色も見るし、本当はこう思っているのではないかとか気にしてしまいます。
そうやってストレスを抱えている人もたくさんいると思います。私の弱い部分を武器として、なんかもうすべてを包み込むようなお店になったらいいなと。
ベーグルを食べてでも、私たちに会ってでもいい。ここに来ると何かプラスになるものがあるといいなと考え「リトルプラス」という店名にしました。もともとそういう場がつくりたくて、そこにベーグルが加わって今のカタチになりました。
一お店を持ってから意識の変化はありました?
長谷川 やってみてびっくりすることばかりでした。少しのプラスをお客様に持って帰ってもらいたいとか理想はありましたが、いざそれを自分でやってみるとなると、何をどうしたらいいのか。ただ美味しいものを出せばいいわけでもなく。
全然答えが見つからないなかでも、お客さんに恵まれて、ここのベーグルを食べると元気になるとか、2人の笑顔に元気をもらっているとか、そうやって言ってもらえてはじめてこんなに大変というか、答えがないことをやろうとしていたのだと気づきました。
食べてみると美味しい美味しくないの答えは出ると思うのですが、そこに元気がもらえることがあるのは、すごいことだなと改めて感じています。
―ベーグルを作る過程で大切にしていることはありますか?
長谷川 朝5時頃から焼き始めます。生地は前日に仕込んであるので、朝来たらそれを焼いて、オープンの11時に間に合うように、冷まして袋詰めします。オープン後に落ち着いたらまた次の日の仕込みを始め、それが夜8時頃まで続きます。
機材や人を増やせばつくれる数を増やせるかもしれないけど、本当においしいものを届けたいので一個ずつ丁寧に作っています。時間はかかりますが、それは自分達で守り続けていきたいです。
種類もどんどん増えています。たくさん種類があった方が、ワクワクするじゃないですか。種類によって、それが好きなお客さんの顔が浮かびます。
メニューは日替わりなので、はずれることの方が多いのですが、この日にあのお客さんが来そうだなと思ったら、好きなベーグルをメニューに入れています。
―一人一人に向きながらやっているのですね。
長谷川 そうですね。ベーグルは、一つの道具じゃないですけど、それに出会って喜んでもらえることが嬉しいです。
一たくさん種類がありますがメニュー開発は、どのようにしているのですか?
長谷川 世界には美味しいベーグルはたくさんあります。私たちはそうではく、世界一あたたかいベーグル屋になりたいと考えています。
母親は料理がすごく上手で、そこにあたたかさもあります。それを見習って、私もあたたかいものをつくりたいと思うようになりました。それで、食べて「あたたかいね」、「ほっとするね」という状況をイベージしたときに総菜が浮かびました。
母親に教えてもらったレシピではないですが、いつもあたたかさを考えながらメニュー開発をしています。ずっと母親の味で育ってきた私がつくったベーグルをあたたかいと言って食べてもらえるのは、あたたかく育ててもらったのもあるのかなと。
―ベーグルの大きさが、よく目にするベーグルより大きいように思うのですが、大きさには何か意味があるのですか?
長谷川 食べて少ないより、食べてお腹いっぱいになって欲しかったのが最初の発想です。具もぎっしり入れた方が満足感もある。
お店を始める前に出ていたイベントで、大きいと言われてよくないのかなと思い、一度悩んで小さくしたこともあります。何か違和感を感じて、うちは大きくないとダメだとすぐに戻しました。
食べきれなければカットして次の日に食べたり冷凍したり、シェアして食べる方もたくさんいて、お客さんが自由にできた方がいいなと。
―つくりたい場があって、そこにベーグルが加わった。ベーグル屋さんになりたくてなるのとは違うからこそできることはありますか?
長谷川 基礎知識がなかったので、何でも挑戦しました。ベーグルのカタチは丸ですが、スティックにしてみたりピザにしてみたりとか、そういうことができるのかなと。
目の前にたくさんの幸せがあります。
―お店を続けて2年が経過し、これから先考えていることはありますか?
長谷川 もっとこうしていきたいというのは、最初の1年くらいはすごくありました。イートンスペースをつくりたい、サンドイッチをつくりたい、冷蔵ケースを置いてもっとたくさんつくりたいとか・・。毎日のように話をしていました。
もっとお客さんに来てもらいたいというおもいが先行していたんだと思います。少しずつお客様の顔を見れるようになってきて、目の前に喜んでくれる人がいることに気づけたら、そういう欲がどんどんなくなっていきました。
少し前に腕を怪我して、常連のお客さんが心配して「ここがなくなったら困るから、今は休んでね。」とか、そういう声をいただいて・・・。今できることを最大限やることが大事なんだなと。
先日テレビで、昔ながらのお弁当屋さんが出てきて、ここに毎日来る人がいることを目指していると言っていました。ここは発展しないけど、多分そのお弁当があることで喜んでくれる人がいる。そこはないといけないというか生活に不可欠な存在。そんなカタチが理想です。
―最後に、“はたらく”とはなんですか?
長谷川 「喜び」です。お客さんの喜びが私の喜びに繋がって、生きることができています。生きて行く為には働くことが必要で、でも働くことで私自身が活かされている気がします。生きる為に働くのではなく、大好きな場所でお客様の喜びを感じる為に働くことが私にとって全てです。
取材日:2017年8月9日/取材:大野嵩明、岡西康太 記事:大野嵩明 写真:岡西康太
—今回のインタビューの中で、一番印象に残っていることは、ベーグルとの出会い方。お店という場をつくるうえで、自分達の武器となるものは何かを考えている中で、たまたま古本屋さんでベーグルと出会うという奇跡。常に考え続けていたからこそ偶然の出会いを自分のものにできたのかもしれない。常に考え続けるという姿勢を見習っていきたい。—