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2017-04-25

「やろう!」と思ったら素直に行動する~第21回 はたらくインタビュー【靴磨き職人 河村真菜氏】~


第21回はたらくインタビューは、靴磨き職人 河村真菜さんです。前回のはたらくインタビューで登場した佐藤我久さんがオーナーを務めるGAKU PLUSで働いています。

佐藤さんへの取材のときに少しだけお話しさせていただき、そこで会社員を辞めて靴磨き職人を目指したという話を聞きました。なぜ靴磨き職人を目指したのか、いまはどんなことをおもいがら働いているのかなど、じっくりお話しを聞きたいと思いインタビューをさせていただくことになりました。

プロフィール
名古屋市出身。 大学卒業後、会社員として働いていたが 本をきっかけに靴磨きに目覚め、現在は名古屋駅の靴磨き店に勤務。靴磨きをはじめ、靴修理や染め変え、革製品のメンテナンス等を承る。個人の専属職人や空港への出店を目指し奮闘中。

靴磨きとの出会い

―靴磨きの職業とは、どのように出会ったのですか?

河村 友人から借りた本にイタリアの靴磨き職人ロザリーナさんが掲載されていたのを見たのがきっかけです。同じ女性が一人で20年も靴磨きをされていることが単純にすごいなと。なぜか「私も同じようなことができる!」と思ってしまいました。

今思い返せば、自分ではそんなに意識してはいませんでしたが、小さいころから靴が好きでした。いまもたくさんの靴を持っています。

また、女性の靴はハイヒールなど脆くて長く履けないというイメージを持っていました。それを長く履くための手助けする職業があることを知ってすごくいいなと思いました。

―靴磨きの職業を知って、その後どのように行動をしたのですか?

河村 「名古屋 靴磨き職人」とインターネットで検索してオーナー(佐藤我久さん)のことを知り、すぐに会いに行きました。そこで「他にもいろいろなお店があるから自分の目で見た方がいいよ」とアドバイスをいただいたので東京にも行きました。

わるいとかではないのですが、東京は完成されているお店ばかり。働いている方は、そのお店の色が強い磨き方をされているなと感じました。ここで働いたら技術を身に付けることはできるけど、自分のスタイルを確立することは難しいと感じました。

そんなとき、オーナーがツイッターで「靴磨き職人募集!」という投稿をしているのをみつけました。条件が18 — 22歳で、私はその年齢を超えていたのでダメかもしれないとおもいながらも、靴磨き職人ロザリーナさんに憧れていて自分の確立したいスタイルがあるという想いを正直に伝えたら採用していただけました。

―すごい行動力ですね。

河村 自分が決めたことは正しいと思い込み、すぐに行動してしまうタイプでなんです。中学校のときに学校から帰宅する途中の地下鉄で、ホームステイの説明会開催の広告を見つけました。それを見てそのまま開催場所の最寄り駅で降りて説明会に行き、その場でホームステイに行くと決めてしまいました。

事後報告で両親に伝えて、15歳の時に一人でアメリカに行きました。本来ならいろいろと段取りを踏むと思うのですが、すぐに決めて行動してしまうのでよく友人に驚かれます。

―靴磨き職人になる前は何をしていたのですか?

河村 新卒で入社した会社で2年3ヶ月ぐらい受付の仕事をしていました。受付の仕事や会社に対して不満があって辞めたいという感情は全くありませんでした。靴磨きの仕事に挑戦したいという気持ちだけだったのでどうしようかなと迷ったのですが、人事の方に正直に伝えたら応援してくれました。

名駅経済新聞さんに、はじめて私が載っている記事が掲載されたときにも、すぐに連絡くださって「記事みたよ。頑張っているね!」と伝えてくれました。今でも応援してくれています。

 

 

靴磨き職人としてはたらくこと

―どれくらいの期間で、靴磨き職人としてデビューしたのですか?

河村 働きはじめて4ヶ月ぐらいです。それまでは、お預かりした靴をオーナーに教えてもらいながら磨いていました。修行期間が終わりデビューするときは、カウンターに立ちその場で仕上るということを一人でやりました。

―不安はありましたか?

河村 このお店は、テレビや記事を見てオーナー目掛けてくる方ばかりです。せっかく来てもらっているのに私が磨いていいのかな、みたいな葛藤がありました。技術的な面でも、靴磨きの修行を初めて3、4ヶ月でオーダーをいただくのは大丈夫かなという不安はありました。

―今はどうですか?

河村 慣れてきたのは最近です。靴磨きには壁がいくつもあります。最初の壁は、あきらかにオーナーの磨いた靴と見た目の仕上がりが違うこと。同じやり方をしても、なかなかそこまでいけませんでした。なぜできないのかを考えながら何ヶ月か繰り返しているうちに、いつの間にかできるようになっていました。その次の壁もあって、まだ超えることができていません。

―それはどんな壁ですか?

河村 お客さんに靴を預けていただければ、はやくはやりますけど時間をかけることができます。その場で仕上げるとなると時間に限りがあるので、その中でどこまで理想の仕上げまでもっていけるのかいつも葛藤しています。

憧れていたロザリーナさんに会いに行く

―大変ながらも楽しそうに仕事をされているのが伝わってきます。ロザリーナさんの存在を知ったことがきっかけで、靴磨き職人を目指し、行動して今がある。本当にロザリーナさんとの出会いは、大きかったのですね。

河村 そうですね。ロザリーナさんのことを知る前に、東京の靴磨き職人の方をテレビで見たこともあったのですが、そのときはまったくひびきませんでした。本に掲載されていたのがロザリーナさんではなく違う方だったら、いま靴磨きをしていなかったかもしれません。

 

 
―彼女にお会いしたことはありますか?

河村 はい。2016年11月に、彼女に会いに行きました。

―靴磨き職人として働きはじめてからなんですね!?

河村 読んだ本には情報があまりにも少なく、イタリア語が全くわからないので自分の力ではホームページも探せませんでした。

色々な方に「ロザリーナさんに憧れて靴磨き職人になりました。」と話していたら、イタリアに支社がある靴クリームメーカーの方が、ロザリーナさんのホームページを探してくれました。そこに、メールアドレスが掲載されていたのでメールしてみました。

最初の挨拶だけイタリア語で残りの部分は英語で書いて送りました。そうしたら返信が英語できて、ローマで会う約束ができました。事前にいろいろと調べていたら日本人が嫌いと書いてある記事をみつけました。

ビジネス関係の方とは良い思い出がないみたいで、日本人は来ても写真禁止。この文章を読んですごく不安になりました。

そんな記事を読んでいたこともあり、お店に到着して最初に「あなたに憧れて靴磨き職人になりました!」と純粋に想いを伝えました。そしたらあたたかく迎え入れてくれました。

磨き方を教えてもらったり、これからの事を相談したり、私の靴も磨いてくださいました。忙しい方なので30分ぐらい時間をいただけたらいいなと思っていたのですが、4時間ぐらいお話しできました。

―どのようなお話をしたのですか?

河村 靴磨きに対する考え方が私の知っている職人の方々とは少し違っていて、それがすごく面白かったです。靴磨きは、靴の表面を綺麗にするイメージが強いと思います。

もちろんそれも大事なことですが、彼女は靴に良いことしかしたくないという考え方を持っていました。ずっと使っている靴クリームは、すべて自然派のもの。

靴の見た目を綺麗に仕上げるという考え方ではなく、「靴に良いことをして育てていく」という考え方に共感しました。

―ロザリーナさんに会う前と後で、靴磨きに対する姿勢の変化はありましたか?

河村 あります。靴磨きをはじめた頃は、知識がなかったので習うことがすべてでした。たくさんの方が実践しているので、靴の表面を綺麗にする磨きがすべてだと思ってしまいがちですが、その磨き方はどうなのかなと心の中では思っていました。新人なのでそんな大きいことは言えませんでしたが・・・。

彼女に会い「靴に良いことをして育てていく」という考え方もあること知り、私もそっちの方向でやりたいと思うようになりました。ナチュラルな感じで磨くことを広めていきたいです。その気持ちは確信に変わりました。

 

 

これからのこと

―これからやってみたいことはありますか?

河村 長期的な目標を立てることが苦手で、短期間な目標しか立てられないんです。短期間の目標でいえば、個人の方の専属靴磨き職人になりたいとかあるのですが、ロザリーナさんに会ったからには、日本のロザリーナになりたいです。超えるとか超えないという話ではなく、自分を出して彼女みたいに認知されたいです。

彼女は、ローマ中で知らない人はいないぐらい有名です。そういうふうに、GAKU PLUSのスタッフではなくて、個人として認知されるようになることが目標です。

―最後に、河村さんにとって“はたらく”とは何ですか?

河村 自分の存在価値を認めるというか、自分が働くことで社会でもいいですし、誰かの役に立っていると感じることです。

—「やろう!」と思ったらすぐに行動する。何が正解かわからない時代の中で、自分の頭で考えて行動することは大切なこと。これからの時代は、好きなこと・やりたいことを仕事にする人が増えていくのかもしれません。大変なこともあると思いますが、何より楽しそうでした。こらからどのように道を切りひらいていくのか楽しみです。—

取材日:2017年3月2日/取材:大野嵩明、山田卓哉 記事:大野嵩明 写真:山田卓哉