自分の生き方そのものが仕事につながっている〜第8回 はたらくインタビュー【金工作家 田中友紀氏】〜
はたらく課第8回インタビューは、金工作家 田中友紀さんです。 出会いは今年10月。田中さんが出展されていたイベントSOCIAL TOWER MARKETでした 。ご挨拶させていただいた時の笑顔がステキで「仕事をしながらものづくりを続け、半年前に独立しました。」のコメントに惹かれました。そんな田中さんに、ものづくりに対するこだわりや想い、起業のきっかけ、“はたらく”についてお話を伺いしました。
—ご職業は「金工作家」ということですが、どのようなことをされているのですか?
金工作家には板から作品にする鍛金作家とジュエリーなどをつくる彫金作家の二通りがありますが、私は両方をつくります。最初は彫金でアクセサリーを制作していたのですが、自分がアクセサリーをつけないことから生活と暮らしに関わるものをつくりたいという思いが生まれ、鍛金で実用品をつくりはじめました。
トレーやフック、タオルハンガーなどです。制作した「暮らしの道具」や「アクセサリー」は、私の好きな雑貨店さんに置いていただいたり、マーケットで直接販売しています。
——いつ頃から金属の加工をされているのですか?。
大学の2年からです。実は、最初は金属が好きではありませんでした。デザインが好きで高校もデザイン科を卒業。グラフィックデザインで広告をつくりたいと思って大学に進学し、絵や写真などを中心に制作していました。先生には申し訳なかったけれど、金属は苦手で魅力が分かりませんでした。
でも、実習で制作経験を重ねるうちに、冷たい金属に人の手が加わっていくことで温かみが生まれることを知りました。「人のぬくもりを感じられるものをつくりたい」。少しずつ金属の加工にはまっていきました。今では、その楽しさを多くの方に知っていただくため、ワークショップも開催しています。このキラキラした金属が加工によって温かくなることを、感じていただきたいんです。
—大学卒業後、そのまま作家になられたのですか?
いいえ。大学時代から年2回、販売が目的ではなく作品に対する意見を聞きたいと思ってクリエイターズマーケットに参加していました。仕事にできるとは思っていませんでした。実は、作品づくりに没頭しすぎて憧れのお店の就活に間に合わなかったんです(笑)。憧れのお店というのは「無印良品」さん。諦めきれず、パート社員として入社しました。
—手作りの田中さんの作品とイメージが違いますね?
世の中には主張するデザインが多いと感じていました。私は昔から無印良品さんの変わらないデザインが好きでした。主張しすぎない、それでいてデコレーションすると自分のものになる。無印良品さんで学んだ「これがいい」ではなく「これでいい」という考え方は、私の作品のコンセプトの「暮らしの道具」につながっています。働いていなかったら、ずっとアクセサリーを作っていたかもしれません。
入社後、生活に関わる収納・キッチンなどの売り場や施工管理を担当しました。当初ホームセンターみたいだと思った経験は、収納の工夫によって自宅の中がきれいになったりして、楽しくなりました。働きながら作家活動を続け、1年後、制作に専念するために会社を辞めました。制作したものの販売だけでは生活が難しくて、復職したのも無印良品さんでした。生活できるようになるまでお世話になりました。本当に好きです!
—独立後、制作の時間はどのぐらいですか?
自宅の工房で、日によってばらつきはありますが、10時から休憩を入れながら20~24時頃までつくっています。先日の自分の誕生日には、朝4時までつくっていました。マーケットにご来店いただいたお客様からオーダーいただいたデザインもお任せのブレスレット。彼女への内緒のクリスマスプレゼントでした。普段は自分のペースでつくるのですが、間に合わせるために頑張りました。
—お休みされることもあるのですか?
旅行が好きで1週間休むこともありますよ。青春18切符を購入して一人旅とか。最近では、長野県松本市の町並みが好きになり月に1~2回通っていました。街をぶらぶら、松本城など歩きながら楽しんでいるとカフェやゲストハウスで知り合った方とつながりもできて、もっと好きなります。
ゲストハウスでは2段ベッドだったり、共有のリビングで知り合う方と仲良くなります。ゲストハウスのワークショップに参加したことから、松本市に作品を置いていただくことになったこともあります。
—旅行も仕事につながっているのですね。
そうです。気づいたら、楽しんでいたものが仕事になっていた感じです。40歳、50歳になってどんなことをしているかわからないけれど、きっと充実した人生を送っていると思います。今は作家だけど、作家ではないかもしれません。ものづくりが好きというより、人が好きなのです。
人とつながるためのツールとしての『ものづくり』。今年の夏に独立して広がった人脈は倍ではなく、10倍以上。作っている作家さんやお店の方だけではなく、いろいろな分野の方と話すのが新鮮。今回のワークショップの会場のいろは堂さんのオープニングイベントのライブでもステキな出会いがありました。
—今回のSOCIAL TOWER MARKETに参加されたきっかけも何かのつながりからですか?
そうなんです。大学時代に参加し始めたクリエイターズマーケットからつながります。そこで森道市場主催者の方からお声をかけていただき、1回目ということでフライヤーや写真で森道市場への出展を決めました。
その森道市場に参加していた時に、Social Tower Marketの担当の方からお話をいただきました。その方が見せてくださったSocial Tower Paperを見て内容の良さに惹かれ、家に帰ってからも読み返しました。担当のお人柄や、サイトでPaperを手配りする皆さんの写真を見て暖かさを感じ、出展を希望しました。
—イベント参加の決定の基準はありますか?
はい。自分とお客様の雰囲気を重視します。対話してお互いが楽しめること。大学2年の時に開催したギャラリーでの展覧会では、アルミで出来た50体の人型を壁につけて来場者にその人型を叩いてもらうという体験イベントを行ないました。
「人を叩く」ということをどう感じていただけるのか?「いい音がした。」という方や「いいのかな?」と戸惑う方。見て、体験して楽しんでいただけたらと思っていました。商品を販売するイベントにも、つながっています。
—人との対話を大切にされているのですね?
直接話してみないとわからないことは多いと思います。商品を置いていただいているお店には、販売後も顔を出して雰囲気、流れを感じるようにしています。コストがかかっても、東京でも、足を運びます。人との関わりが好きです。取引先ではなく、○○さん。お客様も友達のような感じで対話したいと思っています。
—仕事で苦しいと感じたことはありますか?
終わりがわからなくなった時です。ご注文いただいたトレーをつくったときは、何度つくり直しても納得いく色合いが出せなくて悩みました。答えはあるようでないのです。納品するときにもまだ納得がいっていなくて、お客様の前で「再度つくり直したいのでお時間をください」と納品日時を変更させていただきました。手渡したら、取り返すことができない。自分が納得するまでとことんやると決めてやります。
—最後になりますが、田中さんにとって『はたらく』とは?
『自分の生き方』です。自分の生き方そのものが仕事につながっています。もちろん、仕事をやめたいと思ったことはありません。自分でなくなってしまうことが嫌だからです。やりがいを感じたり、お客様と共感できたり、笑顔になったり、人として向き合えることを楽しんでいます。
―インタビュー中、自然体の笑顔で対話をしてくださった田中さん。人が好き、出会いが好き、旅が好き、デザインが好き。好きなことを仕事にしている田中さんの『はたらく』は、『自分の生き方』。人とのつながり、対話するためのデザイン・ものづくりへのこだわり、本当にステキでした。―
取材日:2013年12月20日/取材者:大野嵩明、若尾和義 /写真:大野嵩明、若尾和義 /記事:若尾和義 /校正:前川みどり/取材協力(場所提供):いろは堂