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2021-02-15

「やってみたい」を応援できる世の中に。課題解決に向け伴走するコーディネーターが語る、これからの「はたらく」で大切になるもの|NPO法人G-net 代表・南田修司さん、コーディネーター・掛川遥香さん


「兼業・副業元年」といわれた2018年から3年が経ち、当たり前だった「ひとつの職場・職業ではたらく」にとらわれない、兼業・副業といった新しい働き方がだんだんと広まってきているように感じます。
他方、多くの企業・人材にとって、この変化はまだまだ縁遠いもの。兼業や副業に関心があっても、どこから手を出したら良いのか、きっかけを掴めないでいる人もいることでしょう。

岐阜県にあるNPO法人G-net(以下、G-net)では、2018年より兼業人材と地元の中小企業とのマッチング事業「ふるさと兼業」を展開。「コーディネーター」と呼ばれるスタッフが企業と人材の間に立ち、双方をサポートしながら企業の課題解決に取り組んできました。

今回は、コーディネーターの役割紹介を通じて、兼業人材と企業のマッチングの可能性、働き方の多様化の先にある広がりについてひもといていきたいと思います。お話しいただくのは、G-net代表を務める南田修司さんと、コーディネーターとして活躍する掛川遥香さんです。

プロジェクトの立案からチームビルディング、ファシリテートまでをサポートする、課題解決の影の立役者

はじめに、掛川さんにコーディネーターのお仕事についてお伺いします。普段、コーディネーターとしてどんなことをされているのでしょうか?

「企業の課題解決のスタートからゴールまでを、まるっとサポートするのがコーディネーターの仕事です。企業の課題の把握から始まって、課題解決に向けたプロジェクトの構築、人材募集にあたって必要となる求人記事の作成、人材との面談や採用面接、メンバーの顔合わせの場となるキックオフの設計、プロジェクト進行中のファシリテートなどなどを担っていきます。
例えば、課題解決に向けてアクションしたいと考えている企業に対して、まず行うのが、現状のヒアリングです。企業が抱えている課題と、解決する上で足りていない部分を洗い出して、それを受けてコーディネーターは3年後や5年後といった、企業の将来像も見据えながら『将来像を実現するにあたって、直近で何ができるか』を一緒に考え、プロジェクトの具体的な枠組みをつくっていくんです。プロジェクトは、3ヵ月以上で動かすのを基本としているので、できること・やるべきことの精査は特に重要ですね。
併せて、プロジェクトを動かすにあたってどんな人材が必要かも検討して、求人記事も作っていきます。企業が抱える課題、課題解決にかける思いを、端的にわかりやすく言葉にするのは、なかなか大変です。すでにお付き合いのある企業であっても、プロジェクトを立ち上げる際には、1〜2ヵ月かけて準備を進めていきます」

企業だけでなく、兼業人材のサポートもコーディネーターのお仕事。応募してきた人材に対しては面接前に面談を行い、兼業に挑戦するに至った経緯などに耳を傾け、本人の胸のうちにある、兼業への期待感、プロジェクトへの参加を通じてどんな経験を得たいかといった、思いの言語化のお手伝いなども行っているそう。さらに面接にも同席し、人材ごとのキャラクターやスキルを踏まえての仮想チームビルディングを通じて、どの人材を採用するかを企業とともに検討します。
プロジェクト始動後、コーディネーターは企業・人材それぞれのパフォーマンスが最大化されるように、陰ながらサポート。企業の多くはオンラインでのコミュニケーションやリモートでの業務の進行に慣れていないため、ツールの使い方などのアシスタントも担います。プロジェクトによっては、メンバーの一員として業務を担うこともあるそうです。

話を聞く中で「伴走者」「ペースメーカー」という表現が、コーディネーターにぴったりだと感じました。ただ一緒に走るだけでなく、プロジェクトの進捗状況を把握しながら、企業や人材のモチベーションなども踏まえて、時に立ち止まったり、スピードを上げたりして、程よいペースをつくり、ゴールをめざしていく。実践するとなると大変でしょうが、大きなやりがいも感じられるお仕事なのだと思います。

ただ、仕事量の多さには圧倒されました。聞けば、兼業人材を活用してみたいと思っている企業を新規に発掘する営業の仕事も、コーディネーターの守備範囲とのこと。いったい、一人で何役を担っているのでしょう…。南田さんは「業務単位で切り出すと、サービス過多ともいえます」と前置きした上で、次のように語ります。

「あくまで課題解決の主体は企業にあって、コーディネーターは課題解決のサイクルがうまく回るために必要なものは何かを考え、必要に応じて『あったら良いな』を補っていく、黒子(くろこ)のような存在です。
今はサイクルをどう回していくかを試行錯誤する黎明期。『あったら良いな』の比重が大きくなりやすいのだと思っています」

伴走者として、できる限りを尽くすとなると、サポートできる企業の数は限定されます。ですがG-netとしては「理想は、コーディネーターがいなくても課題解決のサイクルが回るようになること」とし、その理想をめざす見据える黎明期だからこそ、ひとつの企業を手厚くサポートすることが重要と考えているそうです。

企業と人材が「思い」でつながり、ともに成長していく

企業と人材のマッチングにおいて、G-netでは「共感」を最も重視しているといいます。課題解決となると、結果を求めるためにはそれ相応のスキルや知識、経験が必要になると想像してしまいますが、共感を重視するとはどういうことなのか、南田さんに聞きました。

「もちろん、スキルはあるに越したことはありません。ですが、スキルがあるから結果が出る、というわけでもないんですよね。
兼業人材の事業を展開する以前より、G-netでは大学生のインターンシップ事業を展開してきました。大学生は、言ってしまえばビジネス経験や事業を動かすスキルを持ち合わせていません。持っているのは、『企業に貢献したい』という思い。そんな彼らがインターン生として企業の一員として加わることで、受け入れ企業に大きな変革をもたらす、なんて場面をこれまでたくさん目にしてきました。こんな原体験もあって、僕らはスキルマッチよりも、思いや共感でのマッチングをより重視しているんです」

プロジェクトを立ち上げる際に時間をかけて記事をつくるのも、「どうして企業が課題解決に臨むに至ったのか、根本にある『思い』の大きさを示す上で欠かせないから」と掛川さんも続けます。

「思いに共感して仲間になってくれる、面白い取り組みだねって応援してくれる、それだけで元気になるんですよね。共感して加わってくれる仲間の存在は、企業そのものの推進力を上げてくれるとも感じています。
だからこそ、人材を受け入れたいと思っている企業の方には、『思い』を言葉にすることに、本気で臨んでもらっています。『仲間ができたらどうにかなる』ものではないですから。難しくて、苦しい思いもするかもしれないですけれど、そこに本気になってはじめて、思いに共感する仲間と出会えるんだと思います」

中小企業の経営者の場合、一人何役もこなしている、なんてことも少なくありません。孤独な思いで頑張る経営者にとって、「思いに共感してくれる人がいる」という事実にふれる、ただそれだけで大きな勇気が得られるのでしょう。プロジェクトを終えた後も、継続して企業と人材が関係していく、といったケースも珍しくないそうです。形を変えて続くご縁が生まれるのもまた、「思い」でつながる間柄ならではと感じられます。

オーナーシップは、参加する一人ひとりの内にある

話に耳を傾ける中で、兼業人材が抱く「応援したい」「お役に立ちたい」といった「○○したい」といった感情は、「衝動」とも言い換えられるのではないかと思いました。理屈では説明しきれない「突き動かす」思いを持って、主体的に課題と向き合う機会は、ビジネス経験を積むほどに貴重になっていくように感じられます。そんな考えを口にすると、南田さんからこんな答えが。

「プロジェクトに参加する一人ひとりに、オーナーシップ(課題に対して当事者意識を持って向き合う姿勢)があるのだと、僕は考えます。課題を抱える経営者はもちろん、その解決に力添えしたいと思った兼業人材も、目の前にある課題に対して自ら『関わっていく・関わっていきたい』となった時点で課題の当事者となり、当事者としていろんな経験や価値を得ていくのだと思います。
ただ、今の時代は『オーナーシップを持つこと』と『仕事をすること』が切り離されてしまっているといえるかもしれません。
でもこのふたつを重ねて、ひとつひとつの仕事にほんの少しでも当事者意識を落とし込んでいけたら、金銭とはまた別の、新しい価値を得られるのではないでしょうか」

確かに、目の前にあるすべての仕事に、オーナーシップを持っているかを問われたら、「持っている」とは言い切れないのでは…とハッとしました。と同時に、少しだけでも当事者意識を持って仕事に臨めたら、たとえ同じ仕事でも、持っていなかったときと比べて向き合う姿勢も、仕事を終えたときの達成感も違ってくるのだろうとも思いました。
取材の最後に、南田さんはこんな言葉を添えました。

「当事者意識を持って『何かしたい』と思った人たちが、それを当たり前に実践していける世の中にしていく。僕らがめざす目標のひとつです。目標を達成するためにも、企業と人材の間に立って、それぞれに寄り添いながら、オーナーシップを持つ意味や、仕事を通じて得られる価値を再定義していけたらと思っています」

「思い・共感でつながる」「オーナーシップを持つ」ことは、働く上で大きな力になり、新しい経験や価値を得る機会をもたらしてくれるのだと思います。
思いや意識ひとつで、その人にとっての「働く」のあり方は変えれらえる可能性がある。自分は、どんなふうに働いていきたいのか。それを考えるきっかけとして、兼業人材として企業の仲間になるのも、ひとつの方法といえるのではないかと思います。

2021年2月20日(日)に「東海地区の多様な働き方実践 3年間 総集編」として、「100年時代の働き方シンポジウム@オンライン」が開催されます。当日は、多様な人材を受け入れている企業のパネルディスカッションや、数多くの企業と人材のマッチングから見えてきた課題と可能性についての講演などが催されるそうです。シンポジウムを通じて、「多様な働き方」に触れてみてはいかがでしょうか。

(取材 2021/2/8 伊藤成美)