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2022-01-18

コーヒーで遊び、嗜好品の裾野を広げる〜第25回 はたらくインタビュー|嗜好品プランナー 青山祥〜


第25回はたらくインタビューは、嗜好品プランナーの青山祥さんです。コーヒーやカフェに関わる事業の運用やイベントプロデュースを行い、嗜好品の魅力を発信しています。コーヒーを好きになり、嗜好品を仕事にするようになった経緯とは? 現在までの働き方や仕事に対する思いなどを、青山さんが友人とともに立ち上げた「カフェバー Lit」にお邪魔して取材しました。

プロフィール
愛知県豊橋市出身。大学卒業後に上京し、飲食店の設備メンテナンス事業を行う企業で勤務。2018年に愛知県へ戻り、カフェの定額制サービス「CAFE PASS(カフェパス)」のセールス担当として拠点立ち上げに尽力したのち、2020年よりフリーランスとして活動。現在は、カフェの開業サポートを手掛ける他、ドリップパックコーヒーのサブスクリプションサービス「BLAN.CO(ブランコ)」の事業運用や、新たな嗜好品の楽しみ方を提案する「嗜好品FESTA」をはじめとしたイベントの企画・運営などを行っている。

「嗜好品」をもっと気軽に楽しんでもらいたい!

—嗜好品プランナーというめずらしい肩書きですが、主にどんな仕事をしているのですか?
元々はコーヒーを仕事の軸にしていましたが、ジャンルにこだわらず嗜好品という広い枠でプランニングをするようになりました。カフェの店舗立ち上げや事業運用のサポートをしたり、イベントを企画・運営したり。嗜好品をより多くの人に楽しんでもらえるよう、日々活動しています。

—「嗜好品」にもいろいろなものがあります。青山さんは嗜好品をどう定義しているのでしょうか?
「嗜好品」とは、一般的には「栄養摂取のためではなく、個人の嗜好を満たすために口から取り入れるもの」という意味​​を指す言葉です。これにはタバコなども含まれますよね。でも、僕の場合はコーヒーが興味の起点になっていることもあり、「香りや味を楽しめる飲み物・食べ物」と活動範囲の定義を決めています。

コーヒーとの出会いは“ゲーセンのお兄さん”が運んでくれた

—そもそも、コーヒーを好きになったきっかけとは?
コーヒーとの出会いをさかのぼると、高校生の頃。当時、地元のゲームセンターによく通っていたのですが、そこで仲良くなったお兄さんみたいな存在の人がいて。その人と会うと、いつも喫茶店に連れて行ってくれたんです。

豊橋駅前のアーケード街にある「鈴木珈琲店」というたくさんの種類のコーヒーを取り揃えている店で、かなり昔からある老舗なんじゃないかな。そこでコーヒーを飲んだり、スタッフさんの話を聞いたりしているうちに、「コーヒーって面白いな」と思いはじめて。最初はカッコつけから入った部分もありましたね。「高校生でブラックコーヒーを飲めるなんて、かっこいいじゃん!」って(笑)。スタッフさんに「自分で淹れてみたら?」と言われ、自分でもコーヒーを淹れるように。産地や焙煎度合いによる味の違いを知っていくうちに、どんどん興味がわいて好きになりました。

—「好き」だけにとどまらず、「コーヒーを仕事にしよう」と思い始めたのはいつからなのでしょうか?
大学生のとき、将来を見据えて「自分のアイデンティティってなんだろう?」と考えていた時期があって。僕の強みは、いろんなカフェや喫茶店、コーヒーについて知っていることだと思ったんです。でも、「知っている」だけでは社会で通用しない。もっと行動に落とし込もうと、人前でコーヒーを淹れる機会をつくりました。

学園祭でハンドドリップコーヒーを振る舞ったところ、想像以上の大反響。他にコーヒーの出店がほとんどなかったこともあり、大行列ができました。「少し他人と違うことをするだけで、こんなに人が集まるんだ!」と驚きましたね。この頃はまだ、「自分で店をやれたら面白そうだな」となんとなく考えていただけで。

「仕事にしよう」と気持ちを固めるまでになったのは、大学3年生の頃のある出来事がきっかけです。同じサークルの友人が、ラジオ局主催の歌のコンテストで入賞して。ステージで歌っている姿に感動したんです。「がんばったら実現できるチャンスはある。自分にも何かできるんじゃないか」と心動かされ、「カフェを開く」ことを本気でめざしてみようと思いました。

新卒での修業期間を経て、全国カフェ行脚の仕事へ

—カフェを開くために、まずはどんなことから始めたのですか?
飲食店の内側を知って勉強しておきたいなと思い、大学卒業後、東京にある飲食店の設備メンテナンス事業を行う会社に就職しました。就活の面接では毎回「将来カフェを開くために、3年働いたら会社を辞めたい」と伝えていましたね。当時は生意気だったので(笑)。「使い物になってきたタイミングで辞めてしまうなら雇わない」という会社ばかりの中で、唯一、「3年で成果を出すならいいよ」と答えてくれた会社で働くことに。とにかく経験を積んだ期間でしたね。

—実際に3年で退職されたのですか?また、その次には何をしていたのでしょう?
実際には、2年半くらいで最初の会社を辞めましたね。店舗業務の知識がついてきて、会社にも貢献できたというタイミングでした。でも、コーヒーに関するスキルは、違う場所に行かなければ学べないなと感じていて。もっと勉強をするため、これを機に名古屋に戻ろうかと考えていたとき、カフェの月額利用サービス「カフェパス」を運営する会社の代表の方と知り合う機会があったんです。

カフェパスは、加盟店のカフェでコーヒーなどのメニューを楽しめるサブスクリプションサービスです。最初は東京を中心にした事業だったのですが、全国に規模を広げようとしていて。「名古屋の事業拠点立ち上げをしてくれないか」とお誘いいただき、カフェやコーヒーの情報をダイレクトに得られる仕事だと思い、入社を決めました。

拠点を立ち上げるには、カフェの加盟店を集めることが必要。提携協力をお願いするにも、どんな店なのかを知っていなくては提案ができないので、実際に足を運んで店を回りました。入り口はまず、コーヒーを飲んで店主さんと会話するところから。名古屋以外のエリアの立ち上げにも関わるようになり、愛知全域、大阪、福岡とあちこちに行きましたね。1日に8〜9軒のカフェを訪れたことも。カフェパス時代に、計600〜700軒はカフェをめぐったんじゃないでしょうか。

—カフェパスの拠点立ち上げをしたことで生まれたつながりは、現在まで活かされていそうですね。
いろんなカフェの方々に自分の存在を知ってもらえて、今でも何かしらご相談をいただくことが多いですね。業界の動向や流行を的確に知ることができたのも、現在の仕事に活かされていると思います。

フリーランスとして活動を始め、友人たちと一緒にカフェを開業

—その後、どんな経緯があってフリーランスになったのですか?
カフェパスの仕事をしながら、並行して個人の活動も始めていたんです。会社員兼、副業フリーランスというかたちですね。コーヒーを題材にしたイベントを開催することもありましたし、いちばんの目標だったカフェの開業にも取り組みました。友人たちと始めた店がここ、「カフェバー Lit」です。

2020年7月からはカフェパスを離れ、10月から本格的にフリーランスとして活動しています。
(※残念ながら、のちにカフェパスはコロナの影響でサービスが終了しました)

—「カフェを開く」という夢を叶えたのですね。Litはどんな店なのですか?
Litは2019年に間借り店舗からスタートして、2020年1月に常設店舗としてオープンしました。コンセプトは「人と人がつながる場」。イベントができる空間をベースに、飲食の要素を取り入れました。

Litの運営の中心メンバーの1人は元々、大学のイベント企画サークルの仲間。僕自身、イベントを企画することも好きだし、この場所から新しい出会いが生まれたらいいなという思いもあり、一緒にLitを立ち上げるに至りました。さらに、友人の友人という関係性からつながったメンバーなど、徐々に関わる人の輪が広がっていって。現在、店頭に立っているのは店長と料理担当の2人。さらには、僕を含めたプラス3人が運営に関わっています。

Lit主催でマルシェを企画したり、貸しスペースとして外部の人が出店したり、イベントは頻繁に開催していますね。

—立ち上げに関わったカフェは、他にもあるのでしょうか?
コーヒーや紅茶の導入をお手伝いしたり、運営の細部までプランニングしたり、関わり方の深い・浅いはありますが、すべて含めると3店舗の立ち上げに携わりました。2020年12月にオープンした「trive cafe sakae」では、ティースタンドの茶葉の導入や、スタッフオペレーション、マネジメントなどのサポートを担当。加えて、2022年から始動する案件では4店舗からご相談をいただいています。

—幅広い知識が必要な仕事ですね。マネジメントや現場での動き方は、どこでノウハウを身につけたのですか?
新卒入社した会社で、後輩社員の研修プログラムを作成する担当をしていたんです。そのときに、どういう話し方をすれば良いのかとか、どういうポイントをケアするべきだとかを学びました。

大学時代のアルバイトも有意義な経験になりましたね。金山駅近くの喫茶店でバイトをしていたので、飲食店従業員としての業務には慣れていました。

嗜好品の楽しみ方は「飲む」「食べる」だけではない

—カフェの開業サポートだけでなく、さまざまな事業の運用やイベントプロデュースにも力を入れているそうですね。
たとえば、ドリップパックコーヒーを毎月定期便で届けるサービスの「BLAN.CO」。株式会社Beans Bitouと株式会社R-proの共同事業ですが、本格的に販売を始めるタイミングで僕も関わらせていただくようになりました。主に、イベントや新商品の企画、BLAN.COの魅力を広めるアンバサダー制度の発信などの役割を担っています。

名古屋周辺で活動する嗜好品プレイヤーが集まって、新たな嗜好品との出会いをつくっているのが「嗜好品FESTA」。主催者として企画・運営をしながらも、出店者としてコーヒーを淹れています。コーヒーとマフィン、日本茶とカヌレなど、出店者同士でコラボしたペアリングを用意している他、コーヒーと紅茶など、他にはないブレンドをした新ドリンクも提供しています。

—コーヒーにはじまり、いつの間にか他の嗜好品にも幅が広がっていったのですね。
Litの運営メンバーが「Teapick」という紅茶のオンラインショップを運営していたり、チャイ職人や菓子職人が身近にいたりと、いろんな嗜好品に触れる機会が多かったんです。それで自然と興味がわきました。コーヒーに限らず、各ジャンルをもっとまぜこぜにすれば、新しい価値が生み出せるんじゃないかと。

嗜好品FESTAで提供している新ドリンクもそうですが、コーヒーと他の嗜好品を組み合わせたら、面白いものができるだろうとずっと思案していて。自由な組み合わせでオリジナルドリンクを飲めるサービスもつくってみたいですね。

あとは、「コーヒーで遊ぶ」ことをテーマに実験的な活動もしています。コーヒーの抽出音と音楽をあわせて聴覚に訴求するパフォーマンスをしたり、種麹メーカーとコラボしてコーヒー豆を麹化させて風味の変化を探求したり。多彩なジャンルの人たちと協力し、ただ「飲む」「食べる」だけではない嗜好品の楽しみ方を模索していきたいです。

“はたらく”とは、やりたいことを叶える手段のひとつ

—フリーランスとして独立してから1年半。仕事するうえで大事にしていることは何ですか?
ここ数か月、特に意識するようになったのは、理想と現実のギャップの妥協点を探ること。たとえば事業で思うように数字が伸びないとき、分析をすれば原因や改善点は挙げられます。でも、今のタイミングでは手が届かない部分もある。「やっちゃおう!」というノリだけで進めてしまっては、うまくいかない。他の誰かにサポートをお願いするのか、理想を少し下げるのか、やるべきことの見極めを大事にしています。

—その他、これからやりたいことはありますか?
事業運用にも関わりつつ、自分も表に出て活動することで、経営者視点とプレイヤー視点のどちらからも物事を見られるようにスキルを伸ばしたいです。新しいプロジェクトの種もいっぱいあるので、まずは自分のできることを全力で!

それから、間借りでカフェを始めたい人をプロデュースするサービスも計画中です。場所を貸したい人と借りたい人をマッチングさせるだけではなく、原価設定や集客などをトータルでサポートして、自分の店を持つ第一歩を踏み出せるように応援したいなと。結果的に個性的な店やプレイヤーが増えていけば、カフェや喫茶店業界がもっと盛り上がると思います。

―最後に、青山さんにとって“はたらく”とは何ですか?
「やりたい」を実現するための手段です。そのやりたいことが事業でも趣味でも、何か勉強したいことでも。お金を稼ぐこと自体が目的ではなく、“はたらく”とはあくまでも目的に近づくために必要な方法・行為だと考えています。

—終始、笑顔で取材に応じてくれた青山さん。その自然体で柔らかな雰囲気と同様に、コーヒーから嗜好品へと枠を広げた働き方にも、型にとらわれない柔軟さを感じました。印象に残っているのが、「コーヒーで遊びたい」と語ってくれた言葉。「遊ぶ」というと普通は「はたらく」の反対の意味を指しますが、青山さんのはたらく姿勢には、真面目さと遊びが同居しているような気がします。“真剣な遊び心”で、これからも新しい嗜好品の世界を見せてくれるはず。さらなる活躍が楽しみです。—

取材日:2021年12月24日/取材・文・撮影:齊藤美幸、写真提供:青山祥さん