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2017-03-07

リーダーの大切な仕事とは〜現場に寄り添った、いまあるものを「つくり直す」リーダーシップ〜【はたらく推薦図書 第28回】~


リーダーの大切な仕事とは〜現場に寄り添った、いまあるものを「つくり直す」リーダーシップ〜【はたらく課推薦図書 第28回】

リーダーシップと聞くと、ベンチャー企業などのカリスマ性や強烈なキャラクターによるゼロから「つくる」リーダーシップを思い浮かべるかもしれませんが、いまある「ふつうの会社」で現場に寄り添い、いまあるものを「つくり直す」リーダシップも存在しています。

過去10年間に渡って業績は、右肩下がりだったミスターミニットを、3年で新サービスが次々と生まれ、過去20年で最高の業績を残しV字回復に導いたミスター二ミット代表取締役社長 迫俊亮さん。

今回のはたらく課推薦図書は、迫さん流のいまあるものを「つくり直す」リーダシップの考え方について紹介します。

29歳で、ミスターミニットのアジア・パシフィックの代表取締役に

本書の舞台となるミスターミニットは、1957年にベルギー・ブリュッセルで生まれた、靴の修理や合カギ作成などを手がける老舗企業。日本では、1972年から展開を開始し、その後アジア事業が日本を本社として独立。

一方、著書の迫俊亮さんは、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)を8月に卒業して、4月に三菱商事に入社。その間の半年間、バングラデシュで採れるジュートという植物を素材に使ったバックを現地で製造し、日本で販売するベンチャー企業「マザーハウス」でインターンをしていたそう。

三菱商事に入社するも、インターンでの日々が忘れられず、半年で退社し、マザーハウスに出戻る。2年後に、台湾事業の立ち上げの大役を任され、4店舗展開し、20人の従業員を抱え、小さいながらもアジア事業の展開の足掛かりをつくる。しかしながら、4年経って切り開いたのは台湾だけ。自分のマネジメント力不足に強烈な焦りを覚えるように。

マザーハウスに恩はあるが、一度外で「経営のやり方」を学ぼうと、プライベート・エクイティ・ファンドのユニゾン・キャピタルへ転職。この会社が買収した企業がミスターミニットで、その立て直しをすることに。しかし、そこで待っていたのはあり得ないような惨状・・・。「このままじゃ、この会社はだめになる。変えるならいましかない」と、自分のすべてをかけて会社をつくり直そうと社長に名乗りをあげた。

経営と現場の「配管」が腐っていた

会社の規模や関わる人が多くなっていくと、一人ではできないことが増えていくので役割分担が必要になってきます。その時に、経営と現場の間に、見えない壁のようなものが存在し、組織がうまく機能しないというのは良く聞きます。「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」なんて、有名な台詞もりましたね。

ミスターミニットでも、現場には「上(経営サイド)に何を言っても無駄」というあきらめと無力感があり、経営サイドには、現場感覚とかけはなれたサービスばかりを導入しているため新サービスは40年間成功ゼロなど、無自覚な「現場軽視」があり、現場と経営の連携がうまくいっていなかった。それが、業績不振に陥っていた理由。

事業の本質であり、最大の収益ドライバーが「現場」であるということを経営サイドが腹の底から理解していないからだ。

腐っているのは現場でも経営でもなく、現場と経営をつなぐパイプだ。必要なのはこの配管工事だ、と僕は確信していた。

戦略よりも仕組むよりも大切なもの

このような状況の中で、どのように会社を立て直していったのだろうか。よりよい組織をつくるために必要不可欠なものは、3つあると著書は言います。

1. あるべきリーダーシップの構築
2. 「すべては個人ではなく仕組みの責任」と言える組織づくり
3. みんなが現実に向けて動きたくなるビジョンの共有

あるべきリーダーシップの構築

会社を立て直していくのに、戦略や仕組みづくりではなく、なぜリーダーシップが一番最初にきているのか。

社長に就任した著者も当初はロジカルシンキングによって問題点を整理し、それを解決する美しい戦略を描いてそう。しかし、先輩経営者に、自分が考えている戦略の話をしたところ・・・。

靴修理屋の社長じゃなくてさ、マキンゼーのコンサルタントみたいだね。きみの言っていることは、多分正しい。でもいくら正しくても、29歳の社長がいきなり頭の良さそうな正論を話してきたら、社員にとってはウザいだけだよね。誰もついてこない。むしろ敵だよ。

新米のリーダーが最初にすることは、正論を振りかざすことではなく、みんなの信頼を得ること。事業やプロジェクトはチームで動くことが多いので、良い結果を出すにはリーダーの在り方は大事ですね。

リーダーの仕事は、「スーパーマンのようにすべてを一人でこなすこと」や「自分がやりたいかどうか」ではなく、「現場との距離を縮められるかどうか」を考えることで、自己成長なんて考えなくていいと著者は言います。

「すべては個人ではなく仕組みの責任」と言える組織づくり

何か問題が起きたとき、その原因は個人にあると思ってしまうことがあります。しかし、原因は「人」ではなく社会の「仕組み」にあると考える社会学を学んだことがある著者は、失敗が起きたら犯人探しではなく原因探しをすることが大事だと言います。

社員の失敗は自分の組織づくりの不手際。ミスをした個人に怒ることは、天に向かって唾を吐くようなものである。

リーダーは、誰かのせいにするのではなく、常に客観的に現状を分析し、解決策を見つけ出して実行していく姿勢が必要です。

本書には「人事」「組織」「会議」「インセンティブ」に対し、様々なアプローチをしてきたことが書かれています。一方で、ミスターミニットで実践してきた「仕組みのつくり直し」は、どの会社にも当てはまるものではない。すべての仕組みは、その会社のオーダーメイドであるべきと著者は言います。

上澄みではなく本質を見極め、その本質だけおかりする。これが、「正しい他社事例の使い方」ではないだろうか。繰り返しになるが、そのために必要な自社理解を進めるためのヒントは、「現場」にあるのだ。

みんなが現実に向けて動きたくなるビジョンの共有

変化する時代において、目の前にある具体的な課題解決などの方法(戦術)も大事ですが、経営者やリーダーは時代に合わせて、これから進むべき方向性(ビジョン)を決めていくことも必要です。本書の中で、ビジョンは以下のように定義されています。

・ビジョン・・・どの山を登るか(大きく目指すもの)
・戦  略・・・どのルートで登るか(ビジョンを達成するための方法)
・戦  術・・・そのルートをどうやって登るか(戦略を実行するための具体的な方法)

また、ビジョンを決めるには以下の3つの要素が重要で、ミスターミニットの場合は「世界ナンバーワンの『サービスのコンビニ』」が新たにビジョンとして掲げられています。

1.会社の「強み」と「らしさ」(どんな会社か)
2.時代の流れ(これからの世の中はどうなるか)
3.経済性(儲かるか)

新しいベンチャー企業が生まれることと同じぐらい大切なのが、いまある「ふつうの会社」が生まれ変わり、光輝くこと。今勤めている会社をより良くしていきたいと考えているリーダーの方におすすめの一冊です。

タイトル:やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力

著書:迫俊亮
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン